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  • 執筆者の写真Mai Ishida

枕元

6~7年前からオークションサイトにハマっています。


所持カメラ7台中3台が中古です。

家電も数台買いました。


一番多く購入しているのは古書です。

コロナ自粛期間になってから、ほぼ毎週何かしらの本を落札しています。

(駆け引きが楽しいです)


古書は主に、幼い頃若い頃に買った本、雑誌を購入しています。


先日、下記の雑誌を購入しました。




mc Sister 1990年9月号です。

(愛猫まさおの写真、失礼します。モデルは川原亜矢子さんです)


数年待ってやっとオークションサイトに登場し、即落札しました。

このファッション雑誌になぜ執着?と私以外のすべての方が思うと思います。


この本は、祖母のお通夜の時に、自分の枕元に置いていた雑誌です。


1990年7月29日に祖母は亡くなりました。


祖父母の家の目の前にある石段を上ると、歩道がかなり狭い国道があります。

祖母はめったに歩かないようにしていたのですが、たまたま所用が出来、その国道の歩道を歩いたところ、ダンプカーにはねられて亡くなりました。


被爆しても生き残り、持病があっても地道に生きた祖母が、あっけなく亡くなりました。


その当時、私は高校生でした。

夏休みの補習もほぼさぼり、腕をとおしていない高校の制服を着て、長崎に向いました。


制服って便利な洋服なんだと思いながら、このmc Sister 1990年9月号を購入し、神妙な気持ちで特急かもめに乗り、祖母の眠る病院に向かいました。


祖母は、家の前の石段を右に曲がって登って亡くなりました。

そのまた10年前に、祖父は家の前の石段を左に曲がって、石段から転倒して亡くなりました。


昨今、近くにある小学校の避難用道路の工事のために祖父母の家は立ち退き、今急ピッチで工事が行われています。


祖父母の家が立ち退き、新しい道路がいつか完成する。

家の前の石段は悲しいインターセクションとなったのですが、新しい道路が出来ると、祖父母がこの場所で生きていた痕跡はなくなります。

ですが、若い未来ある子供たちが道路を歩く姿を見たらきっと、時間の優しさと薄情さを実感出来て、私は前を歩いていけるだろうと思い、One's memoryという作品を4年前から制作しています。


祖母が亡くなった国道の写真は、作品には入れませんでした。

見る人の想像力を阻害し、私が今後伝えたいと思っていることのベクトルをずらしてしまう気がして、除外しました。

(新しい道路が出来たら、この写真への思いが恐らく変化する気はします)



mc Sister 1990年9月号の話に戻ります。


お通夜の日、斎場に泊まりました。

興奮して眠れません。


私は定期的に長崎に行っていたにもかかわらず、祖母とはほとんど会話したことがありません。とても寡黙な人でした。

大人になったらもしかすると世間話のひとつでも出来るようになるかもしれないと、勝手に何となく思っていましたが、その機会がなくなりました。


そして、祖母の遺影の写真がとても怖かった。


以前から、祖父の遺影が怖くて、遺影のある部屋で寝ると、布団を頭までかけて、遺影が見えなくなるようにして寝ていたほど、私はステレオタイプな遺影が苦手です。

(窒息しそうでした、頭まで布団は)


落ちつかず、眠れない焦りに動揺していたら、祖母と一緒に住んでいた叔母だったか誰だったか、「眠れない時は、それでいい。体を横にしているだけで、体は寝ているとみなしてくれる。」と私に言いました。


その言葉のおかげで、私は重力から解放されたように心身が緩みました。

いいや、寝れなくても。人生初の徹夜になるかもねと気持ちが大きくなりました。


その時、枕元にはmc Sister 1990年9月号がありました。

ガン見しました。

バブル期の雑誌なので、紺ブレやラルフローレン風のマドラスチェックシャツなどが大々的に掲載されていました。


数か月後、私は高校を中退し、アルバイトで貯めたお金でキレカジ洋服やバッグを買い占めました(死後連発すみません)


おそらく、長崎に滞在した一週間の間で、娯楽はmc Sister しかなかったと思います。

かなり読みつぶしたので、物欲も比例して上がり、自分の自由になるお金を作って買おうと決意した気がします。


今回mc Sister 1990年9月号を発見出来たのは、表紙の写真を覚えていたからではありません。キレカジやシスターモデル特集やエコロジー講座が載っていた本。それだけの記憶でずっと探していました。


記憶なんていい加減。

己のDRAMはなかなか自分勝手です。


おそらくこの雑誌がお通夜で読んだ本だ。

そう思って落札して受け取ると、やはりそうでした。間違っていなかったです。

他の特集も付録のタテゴトアザラシのポストカードも広告も、見てみると、ああ覚えている!と実感しました。


今でもごくまれに眠れない日があります。

そんな時、お通夜で聞いた言葉「眠れない時は、それでいい。体を横にしているだけで、体は寝ているとみなしてくれる。」を思い出します。

そして、焦らなくていいと安心します。


どの本だったか忘れたのですが、最近読んだ本に「人生は時の雫だ」という文言が書いてありました。

最近この言葉が私のお守り代わりになっています。


1年に数回夜中に、自分もいつか亡くなるんだと考えて、いたたまれない気持ちで夜中を過ごすことがあったのですが、この「人生は時の雫だ」という言葉に出会ってからは、そんな時間がなくなりました。


「人生は時の雫だ」とつぶやけば大丈夫。

言葉は時として刃になるものですが、優しい盾にもなる。


mc Sisterを30年振りに受け取ってから、気持ちが楽になりました。


さて、今後も本雑誌を落札したいと思います。

オークションサイトは、タイムマシンだなあと感じます。







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